石塚 正敏 教授 |
石塚ゼミの夏季校外授業/施設見学(第2報)
生活環境マネジメント学科・石塚ゼミでは8月、毎年恒例の夏季校外授業/施設見学に参加しました。石塚ゼミでは、①医療や介護に関するケア・マネジメント、②健康増進や健康管理に関するセルフ・マネジメント、③環境と健康に関するエコ・マネジメント、等を研究テーマとしており、これらのテーマに関係する機関や施設を順次訪問しています。
(独)国立成育医療研究センター<世田谷> 同センターは、妊産婦医療、新生児医療、小児救急医療をはじめとする、次世代育成を担うナショナルセンターです。昨年4月からスタートした、新型出生前診断の抱える課題等について講義を受けました。 写真(右):センター病院をバックに。 |
新型出生前診断に関する講義を受ける。母体の血液だけで胎児のダウン症などが診断できる画期的診断法だが、命の選別につながるといった倫理上の問題が指摘されている。実際の現場ではどのような課題が出てきているのかを聴いた。 |
VIP用特別病室。天井には有名画家による日本画が描かれている。他に、お産用の特別病室があり、分娩室に行かなくてもベッドが分娩台に変身し、天井が開いて手術用照明が降りてくるなど、ハイテク病室も備わっている。 |
(独)国立国際医療研究センター<新宿>
高度先進医療や国際感染症対策を担うナショナルセンターです。現在、世界的問題となっている、エボラ出血熱の対応にも当たります。
センター病院本館全景。最上階にはVIP用特別病室があり(小写真)、会議室や秘書控え室等も備えている。 | 放射線治療室。CT、MRI、PETなど世界最高水準の医療機器を備えている。 |
国際感染症センターでエボラ出血熱をはじめとする感染症対策の講義を受ける。 | 高度感染症病室。日本に8床しかない最高レベルの隔離病室で、センターにはそのうちの4床が設置。エボラ出血熱患者が日本で発見された場合、最初にここに運ばれる可能性が高い。医療スタッフとも接触せず会話もTV電話。 |
センターには森鴎外の使った机も展示されている。センターの前身は東京陸軍病院であり、センターは鴎外が校長を2期務めた陸軍軍医学校の跡地に建っている | 発展途上国に対する国際医療協力に関する講義を受ける。 |
模擬授業「女性の結婚観、妊娠・出産に対する意識の近年における変化と少子化問題」
8月25日(日)のオープンキャンパスでは、上記をテーマに模擬授業を行います。
概要:内閣府や厚生労働省が実施した世論調査によれば、非婚化・晩婚化が進む中で、近年、「夫は仕事、妻は家庭」という伝統的な男女の役割分担意識(ジェンダー)に賛成する人が増加に転じています。一方、若い夫婦の出産意欲は維持されるものの、実際の出産数との差は拡大しつつあり、その大きな要因として経済的問題が指摘されています。
授業では、欧米先進国の多くで認められる出生率の回復傾向の背景を探りつつ、我が国で今後期待される少子化対策の在り方を考えます。
6月1日の公開講座で「老後の安全・安心―本当に知りたいこれからの保障と保険―」をテーマに講義しました。
(概要)
世界第一級の長寿国を実現した我が国の国民皆保険制度も、高齢化や医療技術の高度化に伴い、今や国民医療費は37兆円を突破し毎年1兆円の伸びを示しています。また、少子高齢化の進展により年金財政は破綻状態にあるのではないか、とのマスコミ報道もなされています。
我が国の社会保障制度は、自助(受益者負担)、共助(保険制度)、公助(税投入)という3本柱が調和を保って支えてきました。増大する財政負担にどう対応するのか。消費税の議論やTPP問題も含めて、ご一緒に考えていきましょう。
1. TPP(環太平洋経済連携協定)への参加で、国民皆保険制度は廃止を迫られるのか?
・二国間FTA(自由貿易協定)では公的医療保険制度は適用除外されており、TPPでも協議の対象とはならない模様。
・ただし、我が国独特の制度である「混合診療の禁止」については、見直しを迫られる可能性が指摘されている。
・混合診療とは、保険診療と保険外診療をミックスすることで、現在、高度先進医療や差額ベッドなどを除き、禁止措置が取られている。
・混合診療を解禁すれば、米国民間保険会社に参入機会が拡大。
2. 混合診療を解禁すれば、医療の質が向上するなどメリットが大きいのではないか?
・国内未承認の抗ガン剤等が使い易くなるなど、一部の患者に恩恵があるものの、民間医療保険に入れる人(富裕層)とそうでない人とで、医療格差が顕在化。(ビジネスクラス創設)
・製薬メーカーが新薬の保険適用を回避する<自主価格>など、医療費高騰につながるおそれも。
・公的医療保険の給付範囲が縮小するおそれも。
3. 混合診療解禁によるビジネスクラス理論とは?
・高度高額な最新医療技術はビジネスクラス(富裕層)が自由診療とし利用すれば、エコノミークラスの乗客(民間保険に入れない患者)は、自己負担や保険料のアップを回避できるという説。経済界が主張。医療格差の拡大を容認。
4. 介護保険制度は財政難で、事業を縮小するのか?
・要介護度の高い人たちのケアサービス(特養、老健、在宅ケア等)を確保するため、障害程度の軽い要支援者への介護予防事業(家事代行的サービス等)を市町村事業へ移し替えようとの案が議論されている。
5. 国は医療費削減のため、長期慢性患者の集まる「介護療養病床」を廃止しようとしているが、
医療・介護難民が増大するだけではないのか?
・高齢患者の集まる、介護療養病床・老人保健施設・特別養護老人ホームで、入所者の医療
必要度を調査したところ、殆ど差が見られなかったことから、こうした高齢者のケアに適し
た介護型施設への転換を促進し、介護保険費用の効率化を図ろうとするもの。
・日本は、人口当たりの病院病床数が極端に多く、一方、介護型施設数は少ないことからこ
れを是正する必要あり。
6. 少子高齢化の進行で、現行の年金制度は崩壊しないのか?
・高齢者の年金を現役世代の保険料で支えるという公的年金の仕組み<賦課方式>は、高齢化の進行で将来崩壊するのでは、との不安の声が聞かれるが、日本の年金制度は高齢化の進行を組み込んで制度設計されており、定期的な制度見直しも実施されるので、制度崩壊することはない。
・「世代間扶養」の仕組みである賦課方式は、欧米先進国の殆どが採用している制度。
7. 保険料の未納率4割で、既に年金制度は崩壊しているのではないのか?
・自営業者等を加入者とする第1号被保険者の集団(国民年金のみ加入)では、確かに保険料未納者が1/4程度を占めているが、国民年金が基礎年金となり厚生年金等とも共通の1階部分(年金3階建ての最下層)となったことから、国民年金未納率は7.3%と計算され、年金制度維持への影響はない。
・所得が1,500万円以上の世帯でも、保険料滞納者が1割も存在することが問題。
・5月に成立したマイナンバー制度(共通番号制)の活用による公正化に期待。
8. 今年も年金積立金の取り崩しが報道されていたが、制度維持は本当にできるのか?
・個人年金のような積立方式と違い、賦課方式で財政運営する公的年金制度は、多くの積立金を必要としない。
・100年後に積立金を当年度支出の1年分にまで縮小するのが、現在の年金財政計画。
・賦課方式で財政運営する公的年金の積立金の規模は小さいのが通常。(日本の厚生年金積立金は当年度支出の約4年分の規模だが、ドイツでは1ヶ月分)
9. 高齢者が得をし若者が損をするという、世代間格差の大きい制度は廃止すべきではないか?
・高齢世代の多くは自分で親を扶養しながら、自分たちの保険料を納めて公的年金を支えてきたが、一方、若い世代は親を私的に扶養負担することはほとんどない。
・給付負担倍率が将来世代で低下する大きな理由は、長寿化と少子化。
・1980年以降生まれの人でも、給付負担倍率は2.3倍と試算され、払い損にはならない(厚生年金加入夫婦世帯の場合、企業負担分は負担額に含めない)。
・引退後の生活に必要となる収入を、個人レベルで確保することの困難性から、公的年金の必要性は将来も不変。(公的年金は高齢者世帯の収入の7割をまかなっている)
10.少子化が進行するのなら、公的年金も積立型に変更すべきではないのか?
・現行の賦課方式を積立方式に切り替えると、現役世代は自らの保険料の積立と同時に高齢世代の給付のため「二重の負担」が発生する。
・厚生年金を積立方式に切り替えると、500兆円の積立が必要。
・積立方式では、インフレリスクや長寿リスクに対応できず、公的年金の使命を果たし難い。
・積立方式公的年金では、GDPの規模を上回る巨額の資産が市場リスクにさらされる。
・欧米先進国のほとんどが賦課方式を採用。
11.保険料未納問題を解消するため、社会保険方式から税方式に切り替えたらどうか?
・OECD諸国で税方式の公的年金制度を有するのは、ニュージーランド(所得制限無し)、オーストラリア、カナダ、デンマーク、アイスランド(以上、所得制限有り)の5カ国のみで、大多数は社会保険方式。
・消費税を適用すれば、高齢者にも負担を求めることになり、世代間の不公平の是正に資することになるというメリットがある。一方、税方式では福祉手当と同類となり、税収不足の時には給付水準カットや受給対象者の絞り込みが行われることになるほか、保険料の企業負担分が国民に転嫁されるというデメリットも。
・税方式への切り替えの際、保険料未納者も一律に年金を受給できるようになり、真面目に保険料を納付してきた者から不満が吹き出す。この不公平を解消し、税方式へ完全移行するには90年かかる。
12.年金支給開始年齢の引上げは避けてとおれないのか?
・公的年金制度が生涯給付という、長寿リスクに備える制度である以上、長寿化に伴い支給開始年齢を遅らせることは避けられず。欧州諸国でも支給開始年齢を67歳頃まで延長する動きが見られる。
・公的年金制度の維持には、少子化に歯止めを掛けることが第一。子育て支援対策により多くの予算を投じることが、年金制度の安定化にも有効。
厚生労働省による医療機関への指導・監査について、関東信越厚生局長を務めた石塚正敏教授のインタビュー記事が掲載されました。こちらへ
2012年10月、跡見学園女子大学マネジメント学部教授に就任する以前は、公務員として国民の生活環境問題に直結する様々な業務に関わって来ました。以下に、その一端をご紹介します。 | ||
WHO本部の正面玄関にて。(2010) | ||
① 中国産冷凍ギョウザ中毒事件への対応
・2008年1月に発生した、中国産冷凍ギョウザに混入された農薬メタミドホスによる食中毒事件の解決のため、厚生労働省食品安全部長として中国側と多くの交渉を重ね、大臣間折衝のセッティングも行いました。
・2009年11月、陳竺中国衛生部長(保健大臣・当時)と長妻昭厚生労働大臣との協議<写真1>や、翌年の王勇中国国家質検検疫総局長(検疫大臣・当時)と長妻大臣との協議<写真2・3、>では、それぞれ会議の司会を務めました。
・中国でメタミドホス混入犯が逮捕されたのを機に、2010年5月、両国間で再発防止に向けた「日中食品安全イニシアティブ」を締結することとなり、総理官邸で鳩山総理(当時)と温家宝中国首相(当時)立ち会いの下、長妻・王両大臣の署名式が行われました。<写真4>
・「日中食品安全イニシアティブ」の内容は、日中閣僚間の定期協議、問題発生時の迅速対応、相手国関係施設への立入検査の容認等を定め、重大な食中毒の未然防止を目指すものとなっています。
・この事件を契機に北京の日本大使館に厚生労働省の食品安全担当官を常駐させることになりましたが、輸入食品量の多い他国の大使館にも、順次、同様の対応を進めることとし、食品安全対策は“水際対策”から“発生源対策”へと政策転換することになりました。
② CODEX国際委員会総会への出席
・2010年7月、FAOとWHOが共催する食品の国際基準を定めるCODEX委員会の第33回総会(ジュネーブ)に、日本政府代表団の団長として、厚生労働省や農林水産省のスタッフと共に出席し、日本政府の立場を説明するとともに、我が国の食品の輸出入に影響する重要課題に関して、主要国との協議を行いました。<写真5・6>
・総会には100カ国以上が参加し(加盟国180)、食品添加物や食品表示の規格・基準等を議論しますが、最終採択は総会でのみ行われるため、会議は事前協議も含め1週間にも及びました。
・会議の合間を縫って、同じジュネーブにあるWHO(世界保健機関)本部<写真7・8>を訪ね、食品安全担当のケイジ・フクダ事務局長補<写真9>に面会しました。Drフクダは新型インフルエンザ担当でもあり、前年に大流行したブタインフルエンザ騒動の際にはTVの国際中継にしばしば登場していた人物です。Drフクダとの協議では、日本の抱える食品安全問題についてのアドバイスを受けたほか、新型インフルエンザ問題に関するWHOの考え方について、種々の有意義なディスカッションを行うことができました。
○写真集
日中保健大臣協議。長妻・厚労大臣(右)と陳・衛生部長(左)。長妻大臣の向かって左側が司会を務める石塚。(2009) | 日中検疫大臣協議。長妻・厚労大臣(右)と王・質検検疫総局長(左)。長妻大臣の向かって右側が石塚。(2010) |
日中検疫大臣協議に臨む長妻・厚労大臣(中央)と司会を努める石塚(左)。(2010) | 総理官邸で行われた「日中食品安全イニシアティブ」署名式に臨む、長妻・厚労大臣(前列右)と王・質検検疫総局長(同左)。立ち会うのは、鳩山総理(後列右)と温首相(同左)。(2010) |
ジュネーブ国際会議場で開催された第33回CODEX総会の開会式。日本政府代表団席から。(2010) |
ジュネーブ国際会議場の玄関にて。(2010) | ジュネーブのWHO本部正面外観。 |
写真の説明を書きます。 |
WHO本部事務局長補のDrフクダ(左)と石塚(右)。(WHO本部会議室にて。2010) |